ノベルなび

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水底のあなた(みわこ)<深泥池>


ジャンル:ミステリー・ ホラー
場所:深泥池
    Midorogaike Pond

篠突く雨が降りそそぐ夕暮れどき。
私はひとり、深泥が池の淵に佇んでいる。
ここは、かつて龍神の棲む沼と畏れられ、平安の世には貴船の鬼の出入り口と言われていた神秘な池。長い年月の間に、泥が幾層にも積み重なり、今では底なしの沼と呼ばれているこの池には、数え切れない人の亡骸が眠っているという。
水面に敷きつめられた水草が、雨滴を受けて揺れている。まるで、おいでおいでと誘うかのように。まだ、花は咲いていない。


昨夜、久しぶりに夢を見た。
大好きだった、今はもういないあなたの夢。
「ジュンサイ、と言うんだよ。夏になると赤紫色の花が咲くんだ。僕の体に流れる血のような、ね」
水面に浮かぶ水草を指して、あなたは言った。
私はあなたのことばを笑って聞いた。それが何を意味するのか、知ろうとはしなかった。
去年の夏、あなたはこの池に身を投げた。


あなたがいない。ただそれだけで、私の世界はモノクロへと姿を変える。


薄闇の中。あなたの姿を探そうと、目を凝らして水底を覗き込む。ぬかるんだ池の淵から一歩、足を踏み出す。さらにもう一歩。そしてまた一歩。恐れはない。迷いもしない。ただひたすらに、あなたの眠るその場所へと進んでいく。冷たく暗い水底へ、ゆらゆらゆらりと沈みながら、私は水面を仰ぎ見る。薄れていく意識の中で、あちらに残してきたものを、再び出会うあなたを、想う。あなたは私の訪れを喜んでくれるかしら。それとも、馬鹿なヤツだとそしるのかしら。
どっちだって構わない。
あなたの隣が私の在るべき場所なのだから。


遠くで、私の名を呼ぶ、あなたの声が、聞こえ、る。

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